みおというのは本名である。「美緒」という漢字がついているが画数が多くてあまり好きではない。もともとは親が古風な名前をつけたくて、時代劇に登場するような「澪」という字を当てたかったそうなのだが、さんずいがついていることを祖母たちが気に入らず、いまの漢字が当てられたという。
ながらくこの名前がコンプレックスだった。とくに小さいころは、「お」で終わることがいやで仕方がなかった。まるで「おまえは男だ」と言われているようで、じぶんのジェンダーアイデンティティと無縁ではなかった。
『ミオよわたしのミオ』というアストリッド・リンドグレーンの本がある。「私の名前が入ってる!」とおもい小学生のときに親に買ってもらった。すると、中には王子ミオという存在が出てきた。ミオは、男だった。
「mioはこっちでは男性名なんですよ」とは語学研修中にドイツで言われた。
「みお」という名前のついている女性には勝手に親近感が湧く。本の登場人物だと嬉しくなる。なんらかのかたちで、じぶんとおなじ名前が、いつくしまれているとおもう。そして、その名前にコンプレックスを持ったことがあるかをききたくなる。
うまれてきてからずっと、26年間をともにしてきた名前。みお、みおちゃん、みおさん……もう呼ばれ慣れたこの名前を私は手放さないとおもう。