「しかし君、恋は罪悪ですよ。わかっていますか」(註1)
夏目漱石『こころ』で先生はそう言った。そうだそうだ、とおもう。恋は罪悪なのだと。
2020-21年のある時期、恋愛関係にあったひとがいた。彼女と彼女の周囲の人間と私はよく揉めていて、私は何度も彼女を傷つけ、また私も傷ついていた。彼女の友人が特定の属性のひとを揶揄するようなことを言ったとき、その属性に私も入っているというのに庇ってもらえなかっただとかで、私はさんざん彼女を非難した。彼女が友人の作品制作に付き合うということで彼女と友人のふたりでラブホテルに行くのを私は止めたのに行ってしまわれたとかでも私は彼女を非難した。
そういうことが積もり積もってなんどもぶつかり合い、すり減らし合った。最後は彼女側の第三者が勝手に間に入ってきて仲を裂かれた。まあ今は相互ブロックになっているほど彼女と私は断絶している。でもたまに彼女についての愚痴(過去形)をツイッターで垂れ流すと警察に通報が入る。見てんじゃねえよ。
それでも当時を懐かしくおもってしまう。激しい感情の渦のなかにいたことを、とてもよかったことのようにおもってしまう。『こころ』の先生とは立場がまったく異なるが、恋は罪悪というのはよくわかる。そうして「神聖なもの」(註2)であるということも。
もう恋愛なんてしたくない、とおもう。もうだれかを傷つけたくない。それでももう一度だれかとよりよい関係性を目指して歩んでいけたらいいとおもう。なにもわからない。
どこかに、私の涙が凝っている。
註
2.前掲書、42頁。