絶対運命黙示録

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わたしが「少女」だったころ

 


 当時はあまりにも混沌としていて、断片的にしかおぼえていないが、それでもわたしが「少女」だったころのことを書こうとおもう。

 


 秦美香子はその博士論文(註1)において少女漫画によって「少女」がいかにしてつくられ、セクシュアリティと結びつけられてきたかを論じている。秦によると、「『少女』は未成熟な『女』」(註2)である。わたし/たちは「女」になるように仕向けられ、そう呼称されてきたのである。

 


 わたしは、自分自身が「少女」だったころをおもい出すことで、どのように「女」になったのかをかんがえようとおもう。

 


①小学生時代

 田舎の小さな小学校で、一学年一クラス、17〜18人しかいないところだった。女子の方が圧倒的に多く、男子とは無害なものだとおもっていた。比較的のんびりした学年で、自由にやっていたとおもう。「ハリーポッター」シリーズが好きでずっと読んでいた。卒業アルバムのなかの「なんでもナンバーワン」というランキングでは当初「不思議ちゃん」ナンバーワンだったが途中で「度胸のある人」ナンバーワンに書き換えられていた。

 そんななかでも唯一気持ちが悪かったのは文房具屋さんでのこと。個人経営のお店で、母が買い物をしているのを店内で待っているあいだ店主の息子にお尻を触られた。ぞわぞわしてなにも言えなかった。いまでもそのときの気持ち悪さをおもい出す。

 


②中学生時代

 複数の小学校から来ている人たちで構成されていた。男女比は約半半。ここでやっと自分が「女子」に分類され、力のないものだとおもい知らされることになる。隣の中学はもっと荒れていたらしいがそこそこ荒れていて廊下を自転車が走っていた。登校したら窓ガラスが割れていたことや、放課後隣の中学から殴り込みが来たこともあった。いじめもあり、殴る蹴るなどの暴力が横行していた。母によるとわたしは毎日家で泣いていたらしい。幼稚園が一緒だった子がいじめられており、その子が出っ歯だったことからDP、ダイヤモンドパールというあだ名がつけられていた。ずっと先生に相談していたが卒業までいじめはなくならなかった。ポケモンはいまだにトラウマ。司馬遼太郎にはまる。

 


③高校生時代

 地元の公立の女子校に進学した。一学年360人いるマンモス校だった。一、ニ年生のときはクラスに馴染めず修学旅行も孤立してほぼ単独行動だった。早弁して昼休みは図書室に篭り、ずっと本を読んでいた。三島由紀夫にはまる。ほかにも伝記や世界史の本を読み漁っていた。三年生になってやっとクラスに馴染め、一年生のときからずっとクラスが一緒だった子が喜んでくれた。

 通学時の盗撮や痴漢が日常茶飯事で男性教員からの「短いスカートはハニートラップ」という発言に対して「ふーん」としかおもっていなかった。一般公開されている文化祭でも盗撮やナンパが横行していたのにもかかわらず、ずっと守護天使にまもられた学び舎だとおもっていた。

 


 こうして書き出してみると案外いろいろおぼえていた。中学はほんとうにひどかったがそこで仲良くなった人たちとはいまだに仲良くしている。母曰くわたしは中学受験を拒んだらしいがそのとき私立に進んでいたらどうなっていただろうとおもう。ボーっとしたわたしのことだからきっと日常の暴力になにも気づかず呑気に生きていたにちがいない。なにせ高校生時代の性暴力を受け流していたくらいなのだから。

 


 わたしはいま、かぎかっこつきの「女」として生きたくはない。自分のセクシュアリティが構造のなかでつくられていることは重々承知だが、そんな構造が苦しい。魔女になりたい。中学校に入学して以降いやというほど自分が「女」である(になる)ことをおもい知らされてきた。

 


 しかし自分がいかに無力で、暴力にさらされやすいかをほんとうの意味で知ったのは大学に入ってからだった。フェミニズムと出会い、いままで(とくに高校生時代に)遭ってきたものが「性暴力」と呼ばれるものだということを知った。それは「少女」から「女」になる時期でのことだった。

 


 構造的につくられたレールを降りたいとおもうようになったのはさいきんのことである。それまでは「仕方のない」ことだとおもってある程度受け入れてきた。だが、それももうおわりにする。これは「少女」から「女」になってしまったわたしがかぎかっこをとりはらうという宣言である。わたしは、こんなクソみたいな性別にもとづく暴力を絶対にゆるさない、根絶やしにしてやると誓う。

 


1、秦美香子「少女漫画と「少女」の構築 : 現代日本におけるジェンダーの一様相」2009年12月。

2、前掲書、112頁。

 


参考URL

http://www.lib.kobe-u.ac.jp/infolib/meta_pub/G0000003kernel_D1004841