「お前ってそっち系だったっけ?」
「いやいや、俺はノーマルですから」
がやがやとした店内にそんな話が笑い声とともに入ってきた。彼らはバイト先の社長と同僚で、なんの気もなしに話していただけだろう。私はその話に入っていなかったし、たまたま聞こえただけだ。私は目の前に座る少し歳の離れた同僚に恋人の有無や、好みのタイプなどを訊かれていて、それにこたえるのでいっぱいいっぱいだった。
どうしようもなく叫び出したかった。お前らの目の前にいるのは、お前らが揶揄するような人間で、「ノーマル」なんかじゃないと。恋人がいるかどうかとか、そもそも人を好きになる前提で話を進められるおぼえなんかないと。クィアで、フェミニストな魔女が、ここにいるんだぞ!!!!
だが、私は何も言えなかった。ただにこにこと笑っているだけで、その場をやり過ごすロボットと化していた。彼らの、彼女の、発言を、よしとしてしまった。いちばんサイアクだったのは、私だ。
来週からはレインボーの入った人権ブローチをつけて出勤しようとおもう。